環上の代数(後編)
環上の代数(前編)で代数の2つの定義について述べた。結論から言うと、2つの定義が異なるのは見かけ上のことであって、それらは同じ構造を持つ代数系を表している。
そのことを確認するために、改めて2つの定義を与える。以下、簡単のため、環 R は可換環であるとしておく(可換環でない場合を考える際は、適宜 R-加群を左 R-加群と読み替えてほしい)。
まず、(M) に対応する加群から代数を構成する定義を次で与える。
定義1 環 R 上の加群 A において,(A における和と合わせて)A が環となるような積が定義され,x,y∈A および c∈R に対して
が成り立っているとき,A を R 上の代数という.
定義1は、(M) におけるベクトル空間を加群に一般化しただけにすぎない。要するに、加群に積を入れて環としての構造を持つようにしたものが代数であると言えるだろう。
次に、(H) に対応する環から代数を構成する定義を与える。
定義1' 環 R と環 Aの間に凖同型
が存在し,Im f の元が A の元と可換である,つまり,Im f⊂Z(A) (Z(A) は A の中心)であるとき,RからAへの作用を
と定義すると,A の和とこの作用に関して A は R-加群となる.
また,x,y∈A および c∈R に対して
が成立する.このとき,A を R 上の代数という.
このように定義した代数 A は、定義1と同じ構造・性質を持つことがわかるだろう。つまり、2つの環の間に準同型写像が存在するとき、上のように作用を定義することで、環は「自然に」代数としての構造を持つのである。
代数 A が R-加群としての構造を持つこと、積とスカラー倍についての条件が成り立つことの証明は易しいので省略するが、c(xy)=x(cy) の成立のために Im f⊂Z(A) が必要となっている。